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光が明けた空

2010/05/20

――――――
春企画「桃色春音」提出作品
――――――

 『光が明けた空』 天乃音羽著



――――前へ、明日(あす)へと、進んでいけ。この非情にして無情な世界といえど、叶わぬ夢など、実らぬ想いなど、在りはせぬであろう?

――――希望を持つのならば、想いを実らせたいのならば、自らの出来る事を、自らの精一杯の力で遣って見せよ。さすらば、皆(みな)はお前の事を認めてくれる。

 頭の中で何度も何度も木霊するのは、いつかの日に聞いた言葉。繰り返され続ける言葉は、鮮明な映像を伴って頭の中を支配する。
 あの時、私は聞いたのだ。どんな問いにも自分なりの解答を示してくれる、少し風変わりな“あの人”に。質問をぶつけてみたのだ。
 “あの人”にしかわからなくて、“彼”だけの解答(こたえ)だという事は分かっていたけれど、何も知らされず、何も知ろうとせず、何も分からなかったその時の私は、聞いた。
『このような不安な中、明日が来るなんて、どうして分かるのですか?』
 その時の“あの人”は、酷く驚いていたと記憶している。一瞬だけ私を凝視して、ふっと表情を緩めた。私はその時初めて、“あの人”の笑った顔を見たので、とても驚いた。
 “あの人”の微笑みは、優しくて暖かくて優雅で、とても綺麗なものだった。どれだけ顔の整った綺麗な人を連れてきても、これ程までに素敵な笑みを浮かべてみせる者は居ないだろうと思うくらい、“あの人”の微笑みは綺麗だった。完璧な微笑みなのに、どこにも機械的な感情は見られない、どこまでいっても人間が浮かべる笑みで、それでもとても綺麗で。
 けれど、私はとても素敵だと思ったのに、少しだけ違和感に思った。
 “あの人”はそんな微笑を浮かべて、私に解答(こたえ)を示した。

――――そんなもの、決まっておろう? 我らは生きて、強く生きている。明日(あす)を生き続ける。故に、明日は存在するのだ。明確にして、単純な回答であろう。

 “あの人”が示した回答は、やはり“彼”だけの解答(こたえ)だった。
 私は“あの人”の解答(こたえ)に納得できなくて、怪訝な表情を“あの人”に向けていたのを憶えている。けれど“あの人”は素敵な微笑を湛えたままに、私に云った。

――――姫、畏れてはなりませぬ。世界は無情で非情であれど、不安が広がろうとも、たった一つの、貴女が治める世界なのですから。それはとても素敵な事なのですから。

 最後にそう締めくくった“あの人”の表情は、よく憶えていない。
 ただ、一つだけ。酷く“彼”らしくない科白だと、思った。


 ぼんやりと滲んでいく目の前の世界。記憶がシフトしていく。思い描いた少女の脳内で、駆け巡る思想と真実。その先に辿り着いたのは現実の世界。広がる奇異の視線。
「っ……」
「姫様、如何なされましたか! 御気分が優れませぬか? やはりこのようなものは中止すべき……」
「わたくしは構いませぬわ」
 豪奢な着物に身を包み、背後の女性に微笑みかける。広間の奥に座る彼女は、広間の人々の中で一番綺麗で、豪華だった。人々は彼女の言動に目を光らせて、たった一つの無礼も許されないこの空間で、精一杯の虚勢を張り続ける。一瞬でもその緊張の糸が切れようものならば、それは自分の首が飛ぶ事となんら変わりない。
「心配するでない。わたくしはこの通り、さあ、お戻り下さいませ」
 彼女の後ろに控えていた女性は、どこか納得のいかない表情のまま、しかし彼女の言うことには逆らえずに、ある程度の距離を置いて後ろへ下がる。女性が静止したと同時に、広間の中央にいた人々が一斉に頭を下げた。それはとても異様な光景だった。全員がまるで動かずに、この場で一番偉い彼女の言葉を待つ。
 それは、絶対の服従の証。世界でただ一人、“神”と呼ばれることを許された彼女に赦しを請い、生きることを認めてもらうという、異常にして異様な行為。だがそれを異様だと思うものは、この場にいない。何故なら、それが絶対であり、彼女が唯一の“神”だから。
「頭を上げてくださいまし」
 広間に響く“神”の声に、耳を傾ける人々は、限りなく同一に近く混じりあった絶望と希望を抱く。
 そんな彼女の言動は、しかし形だけ。それは、世界でただ一人、世界の中心に居続ける彼女だからこそ出来る事。
 彼女は重たい着物を持ち上げて、非常にゆったりとした動作で立ち上がった。
「姫様!?」
「慌てるでないぞ」
 そして、そのまま未(いま)だに頭を下げ続けている人々の元へと向かう。
 無為の罪を掲げられて死を目の前にしているにも関わらず、“神”の前に無力に跪く人々。だが彼らは、無力だと、想いこんでいるだけ。
「姫様、何をなされているのですか! そのような汚いものの近くになど……」
「口を慎みなさい」
 後ろに控えていた女性が、声を荒げた。だが“神”と呼ばれる彼女は一蹴する。
 その声は大きなものではなくむしろ静かな冷たさを孕んでいたが、だからこその冷たい怒気を含んでいた。女性は冷たい氷に触れたときの様に、ひっと声を呑み込むと、広間に沈黙を落とした。
「赦しなど、何者かに請うものではございません。わたくしの前では、誰もが皆(みな)平等であることが許されるのです。ですから、頭を上げてくださいまし。誰もあなた方を咎めませぬ故」
 彼女は、言った。微笑みは柔らかく、優しく。紡がれる言葉。
 “神”などではない、唯一の少女の微笑みを湛えて。
 だが彼女は、その一瞬後には、凍りついた表情を浮かべて見せた。その姿はまるで凛と気高く華麗に咲く百合の如き。容易に触れることの叶わない毒を孕んだ刺花の如く。唯一の“神”に歪なほど妙に似合う姿だった。
 彼女は人々に背を向けた。ようやく頭を上げた人々が見たのは、気高い“神”の後姿だった。
 そして次いで彼女から紡がれた言葉は、全ての常人の予想を容易に覆した。砥がれた鋭き刃のように、彼女に似合わぬ冷たさで、言葉は広間の人々全員を貫いた。
「わたくしは、わたくしの国を滅ぼそうとしたあなた方を、一生涯赦しませぬわ。もう“これ”は終わりといたしましょう。茶番は愉しいからこそ成り立つのです。つまらぬ茶番などわたくしには無用。さあさ、どうぞ皆さま、お帰り下さいまし」
「……き、貴様っ!」
 今にも掴み掛からんと、先ほどまで無力を嘆いていた人が立つ。だがその手が彼女に触れることは叶わない。横で控えていた者が瞬時に捕らえてしまうからだ。
 人の怒りの矛先は、言動を簡単に翻した彼女。触れることの出来ない崖に咲いた刺花に、怒れる人々の想いは雪崩れ込む。
 彼女は、広間を後にした。


 歩みながらも、頭の中を巡るのは、先程の怒り狂った人々の表情、声、そして驚きと絶望。肌でひしひしと感じたそれらは、紛れも無く彼女を蝕んだ。罪悪感と、虚無感、更に不安と恐怖が混沌と交じり合って彼女の中で蠢く。
――――これで宜しかったのでしょうか、柚詠様。わたくしの行動は、これで正しかったのでしょうか?
 彼女の心の中で繰り返される“問い”に対する“解答”は無い。解答(こたえ)を示してくれた“彼”はもう彼女の前には居ない。
――――“気高く崖に咲き誇る一輪の刺花”。掴めぬ事を理由に不条理に嫌われ憎まれ、わたくしはそのようになれたのでしょうか。わたくしは皆に、哀しみを与えただけではないのでしょうか。
 今にも“あの人”が目の前に現れて、あの一度だけ見せてくれた、人間として完璧な微笑みを浮かべて教えてくれるのではないか。そんな淡い期待と、ありえないという理性がひしめいて、彼女は歩みを止めた。
――――わたくしは皆を助ける事が出来たのでしょうか。
 ぼやけた視界、浮かんだ涙に思わず嗚咽が漏れる。頬に伝う涙、誰かに見られないかと慌てて手で拭う。だが溢れ続ける涙に、止まらない嗚咽に、彼女は着物が汚れるのも構わずに座り込んでしまった。
 “あの人”は常に彼女の傍に居た。屋敷の人々に忌み嫌われているのも気にせずに、“彼”は自身が持つ“個”を揺るがさなかった。彼女はそれが羨ましくて、“彼”が遠慮するのも構わずに“彼”に近付いた。その所為で“彼”の立場が更に悪化して、国から追い出される事が決まった。その事について、謝り、なんとかできるかもしれないと云った。
 いつかの日に聞いた“彼”の言葉が甦る。

――――明日(あす)があるから我らは生を選ぶ。明日が来ぬと知ったからといえど、自ら死を選ぶ必要が何処に在ろうか? 我はどうも、造られた空の下、造られたように動くのは癪なのだよ。

 想い出は色褪せる前に、忘却の空に掻き消えていく。

…………………………………………

 現実と空想の狭間に忘れ去られた何かを手にして、少女は空に吸い込まれるように世界を認識した。
 声が、朗と響いた。
「柚詠様。造られた空は、しかしとても綺麗な青色をしています。そんな空の下でも、貴女は癪に思われるでしょうか?」
 現実の名前を呼ばれた彼女は、呼んだ相手を見てうろたえた。背後から微笑む相手に、涙を見られた。相手にこのように座り込んでいる姿を見られた。それは忌むべき事で、決して行なってはならない事。
「な、ま、妹(まい)姫!? あ、わたくし、その……」
 慌てて取り繕おうと、立ち上がる。だが、着物の裾を踏みつけて、上手く立ち上がれずに相手に寄り掛かるような格好になってしまった。
「落ち着きになられて、柚詠様」
 相手は、ただ一人の近しい使い、腹違いの妹、妹姫だった。妹姫は柚詠を自力で立ち上がらせると、少しの距離を置いて、辺りを気にした。二人以外に誰も居ない事を確認して、続ける。
「あのような言動を柚詠様が行なうなどと、他の皆さまが大いに驚いていらっしゃいましたよ。……ふふ、柚詠様ったら、毒をかぶり過ぎというものですわ。綺麗な花を咲かしていらっしゃるのですから、毒が多すぎて避けられるのは、いいこととは言えませぬわよ」
「そ、それは……、妹姫には関係なくて……」
「柚詠様が」
 遮られた時に、嘘だけはつけないと、思った。
 目の前の映像と、過去の残像が、重なるようにして浮かび上がる。
「この国をお思いになられて、この世界一番の怒りの矛先にご自分がなられると、ご自身の意思でお決めになられたのならば、私は何も云えませんよ。ですが、彼(か)の一代目柚詠様が仰られた事、必ずしも確かとは……」
「分かっておりますわ。それでも、柚詠様は、わたくしに仰られたのです。……何も知らなかった次代柚詠のわたくしに、本来の柚詠の在り方を」
 沈黙が、廊下を、国を、世界を覆った。
 長い長い沈黙の後、愛しむような色を瞳に浮かべると、妹姫は言った。
「……左様で御座いますか」
 妹姫の言葉は、とても優しかった。咎めるようでも、哀しむようでもなく、ただ事実を確認しただけのように、“優し”かった。
「……柚詠様。ご覧ください」
 ふと、まるで今思い出したかのように、妹姫が格子の隙間から空を指した。
「青空が、綺麗ですよ」
 きらりと太陽に反射して、池の水が輝いている。その頭上に世界を見守る青い空を。
「…………そうですわね。……ええ、とっても」
 見上げた空は、風に揺られた雲を遠くの世界へと。何処までも遠く遠く続いていく世界、端の見えぬ世界に、柚詠は静かに目を閉じて、風の匂いを嗅いだ。
 ふと、“彼”の言葉が過(よ)ぎった。

――――知らぬ事は罪であろう? お前は恐らく、世界でただ一人の花となろうから、お前の解答(こたえ)は、世界の回答なのだよ。

――――姫、……いいえ。柚詠様、この世界を、凛と強く羽ばたいてくださいまし。

 新緑の隙間に広がる甘い甘い、花の香りを嗅いだ柚詠は、目を開けて、しかし変わることの無い空を見上げて謳った。


―――― 現(うつつ)の夢の中まどろみ謳え
       さらば愛(いと)しく花の中
       呪(じゅ)と祝(しゅ)と者(しゃ)集え
       されど春の泡(あぶく)となりて ――――


 まるで青空に吸い込まれるかのようにして、唄は霞んで消えていった。



 this is the end...?


後書き(というか反省)→》
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光が明けた空 【後書き】

2010/05/20

こんにちは! こんなところまでようこそ^^

春企画提出作品『光が明けた空
の後書きみたいな追記です。

この作品は、
春企画提出ということで、皆さまからの作品が少し集まった頃に、
企画者も作品必要だろ、ということで書こうと決めたものです。
なので、その時お題として使用数が少なかった「ジャンプ」を使おう! と決めたのですが…

プロット無しで書くのは、おすすめしませんね、やっぱり。

ぶっつけでイメージだけでとりあえず書いてみたら、
まとまりないし長くなるし意味分からないし……などなど。
私の場合だいたいの流れをそうやって作るので、今回も例に漏れず何度も推敲いたしました…。
話はなんとかなったかなぁと思いますが、
長さはこれ以上短くすると更に意味が分からなくなるので、諦めました!←


私の中では、お題を提示した時、
「ジャンプ」よりも「喫茶店」の方が使いにくいかなぁと思っていたのですが、
皆さまはどうやら逆のようで…、少々ショックでした(苦笑)

この作品の何処が春らしくてジャンプなのかと、私も思いますが、
誰がなんと言おうと、ジャンプということで!!

世界観が長編っぽいと言われたので、
もしかしたら思い出した頃に続編とかでたりするかも…、
まあ、無いと思いますけどね^^

というわけで、全く後書きにもなっていませんが、
この辺で失礼します。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました!


 管理人・天乃音羽
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「桃色春音(提出作品)」此の花が散る頃に

2010/05/20

――――――
春企画「桃色春音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『此の花が散る頃に』 月城麻由さま著


*1*

桜が咲いた頃――。

突然、五年付き合ってた彼氏に別れを告げられた。
理由は、はっきりしている。
別れの言葉は「お前と一緒にいると息が詰まる」だった。でも私は知っているんだ。他の人を好きになったってこと。
だって私との約束をすっぽかしてあの子に会って、あれだけ肩を並べて寄り添って歩いていたんだから。
まあそんなこんなでとにかくもうあいつはここには居ない。理解は出来たが感情が追いつかない。
フラれたくせに何を言う、と思うかもしれないがあまりに突然の別れは涙も悲しさも与えなかった。
いつも二人で通った店。あいつと付き合う前から通っていたお気に入りの喫茶店で、美味しいコーヒーを啜りながら、ちらりとドアに目を向ける。
あまりに周りも自分も変わっていないから、錯覚を起こしそうになる。
今にもあいつが遅れてゴメンとか言いながらあのドアを開きそうな気がした。
でも二杯目のコーヒーを飲み終わっても錯覚は錯覚のままだった。ただぼんやりとした余韻は残り風のように消えない。
しかし、別れて涙の一つも出ないなんて、私は本当にあいつが好きだったのだろうか?
もし好きだったなら、私が非情な女か、とてつもなく鈍感な女なのかどっちかだろう。

……後者の気がする。

まぁ、ウジウジと悩んでいても仕方ない。そう思ってみてもなんだか胸がささくれ立ったように痛いのは何故だろうか。
喉元に込み上げた何か――多分嫌悪感か寂しさ――を飲み下すようにカップに口をつける。だがそこに中身は無い。
はたと気づいて店員の姿を探すと、
「おかわりは如何ですか?」
ちょうど良いタイミングで店員がコーヒーを持ってきた。軽く首肯するとコーヒーをカップに並々と注いでくれた。
「……あれ?貴方…」
見上げた顔に覚えがあった。だが名前までは思い出せない。
考えあぐねていると、店員が驚いた顔をした。そしてフッと破顔する。
「忘れてるんだと思ってました。哀澤要(あいざわかなめ)です」
アイザワ、カナメ。
アドレス帳の彼方に埋もれた名前。高校の部活の後輩だ。吹奏楽部で同じ楽器をやってたから、よく話したっけ。礼儀正しい物言いに好感を持ったのを覚えている。
卒業してから会ってなかったけど、彼の変わりようが二年の月日を感じさせた。
背丈はそこまで変わらないが、顔つきが些か精悍さを帯びて肌が黒くなっていた。聞けば吹奏楽は一年で辞めて今はサッカーに専念しているらしいと友達づてに聞いた。
まさかこんなところで会うとは。
「久しぶり、哀澤くん。ここではバイト?」
「はい。三年になって始めました。…といっても週に2回ですけど」
――ん?
なら一ヶ月くらいはここで働いていた事になる。その間何回もこの店に来ていたが、彼を見た記憶は無かった。
いつも、見ていたのは……?
「そういえば、今日はお一人ですか?」
……やっぱ、いつもの光景見られてましたか。
まぁ別にそんないちゃついてたわけじゃないからまだマシって言えばマシだけど…。
「今日は、ちょっとね」
流石に後輩に失恋談を聞かせるのは気が引けた。
「また、起こし下さいね」
「……分かった」
まだ温かいコーヒーを啜る。やっぱりここのコーヒーは美味しい。
だけど同時に感じるのは、虚無感。いつもは私の前にはあいつが居た。椅子一個分の空白は侘しさを倍増させる。
…嗚呼、どうして私がこんな目にあっているんだろう?
だいたい、別れたいならはっきりそういえばよかったじゃない。いちいち私のあら捜しなんてしないで、好きな人が出来たっていえばいいじゃない。
―――いらいらする。とても。
「ねぇ、哀澤くん」
メニューをペラペラとめくりながら私は彼に声をかけた。
「なんですか?」
「ショートケーキとチーズケーキとショコラシフォンケーキとプティングとパンケーキ、一つずつ注文するわ」
「そんなに?…いえ、失礼しました。少々お待ち下さい」
…とりあえず、今日は食べよう。ダイエットは二の次にするとして、靄々とした気持ちはホイップクリームと一緒に飲み下してやるんだから。


*2*

「―――そうなんですか」
「そうなの。ほんとに酷いのよ?大体浮気ってのが酷いと思うのよね。思わない?」
「はい」
「でしょう!?」
バイトが終わった彼を引き止め、夕方のがらんとした店内で美味しい洋菓子とコーヒーを貪りながら愚痴をぶちまける。これは効果的なストレス発散法。
「でも、そんな別れ方をして、もう未練はないんですか?」
しばしの間。
「……無い」
大体最初は向こうからの告白だった。あいつのせいで何回も泣いた。それなのに簡単に他の人のとこに行っちゃうっていうのが嫌だった。
これは私の我儘?
「……」
返事が返ってこなくておや、と顔を上げると、安堵したような困ったような微妙な表情が見えた。
「? どうかした?」
「いや、なんでもないんです。……それよりもう日が落ちますけど、大丈夫ですか?」
外を見遣ると、あたりは段々と暗くなりつつあった。
「もうこんな時間? 帰らなきゃ…って、今日はゴメンね?愚痴聞かせちゃって」
「いえ、このくらいなら何時でもどうぞ」
「ありがと。じゃあまたお願いするかも」
ひとしきり笑って、席を立つ。忘れ物が無いか確認して扉に向かって歩く。
どうしてかは知らないが何時しか靄々はふっきれていた。扉を押すと、カランコロンというベルの音が耳に心地良かった。
コーヒーの残りがを胸いっぱいに吸い込んで、舞い降る桜を見上げつつ思いを馳せた。
―――すぐには無理でも。
時間が経っていけば……忘れられる、かな?


*3*

ベルの余韻を聞きながら、ふうと長い溜め息をつく。疲れた、というのとはちょっと違う。何だかフワフワとした変な気持ちだ。
一つ、伸びをして彼女が使っていたテーブルを片付ける。バイトは終わったと言ったがそれは嘘だ。昔の先輩と話があるからと店長に無理言って終わらせてもらった。
「店長、有難うございました。皿ここに置いときますね」
「なに気にすんなって。あのお客さんは常連さんだからね。相談相手くらいいくらでもなってやりなさい」
「有難うございます。じゃあ俺はこれで」
大体片付けが終わった俺は一言言って店を出た。
生暖かい風が吹き付けた。大きく深呼吸する。

――きっと、あの人はまたこの店に来る。

今までは気付いて貰えなかったが、今日は気付いて貰えた。彼氏と別れたと聞いて喜んだ自分が居たのを隠しながら話を聞くのはなかなか大変だった。
一年の時吹奏楽部に入ってたのは、少しでも近付きたかったから。それでもその所為で彼氏がいるのを知って諦めていた恋心。
まさかバイト代の良さと楽さで選んだ喫茶店が彼女のお気に入りだったとは。まぁ彼氏と一緒っていうのはキツかったけどな。
もうしばらく待ってみよう。それで、もしも大丈夫そうなら桜の散る頃に告白しよう。
瞬間、桜がひとひら舞ってきた。頭の中でその花と同じ名前の、ずっと好きだった人の名前を思い浮かべる。

―――桜。


fin.

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「桃色春音(提出作品)」悪戯うさぎと苺

2010/05/20

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春企画「桃色春音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『悪戯うさぎと苺』 蟻太さま(橘あつりさま)作



--悪戯うさぎと苺--


機械仕掛けの現から
うさぎを追いかけ
抜け出そう。

甘酸っぱい苺の味に
飽きちゃったなら
クリィム舐めて
取り戻そう。

春麗ら、ワンダーランド。
奇怪な夢へようこそ。


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「桃色春音(提出作品)」トリコロールカフェへようこそ

2010/05/20

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春企画「桃色春音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
――――――

 『トリコロールカフェへようこそ』 藍夜つかさ様作


ある日、君はさくらラテを注文したね
新しもの好きな君にはぴったりだ

ねえ、たとえばさ
僕の目の前で桃色に頬染める君が桜なら
君が一気に飲み干したトリコロール
泡立つミルクにちらりと見える緑色は
君を取り巻く春爛漫な環境で
君は大好きなものに囲まれているんだね

ねえ、聞いてもいいかい?
君の大好きなもののうち
僕は何番目に入っているのか

ある日、僕は本当に聞いたんだ
そしたら君はやっぱり僕の目の前で
桃色に頬染めてこう言った

「あなたが一番に決まってるじゃない」

ありがとう、僕も君の事一番に好きだよ

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「桃色春音(提出作品)」Clover

2010/05/21

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春企画「桃色春音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『Clover』 管理人(天乃音羽)の友人作


「幸せになって」
君がくれたクローバー
その緑は綺麗だった

僕は君がいれば
それで十分だったから
その願いは
すぐ叶えられると思った

なのに

「涙を流さないで」
君の最期のコトバ
その笑顔は儚かった

僕は君がいなきゃ
幸せにはなれないから
君の願いは
二度と叶えられなくなった

「私のモノになって」
君がくれたクローバー
花言葉は後に知った

僕のココロ君に
今だ捕われているから
その願いは
既に叶えられているんだ


*Fin*

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「桃色春音(提出作品)」出会い、別れ、そして始まり。

2010/05/21

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春企画「桃色春音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『出会い、別れ、そして始まり。』 夢羅亜紀様著


*1*

「ねぇ、『春』って言われて思いつく言葉って何?」
私が何気なく尋ねたこの問いに、優子は少し笑ってこう答えた。
「そうね…『別れ』かしら?」

今思えばあの時の優子は満開の桜の下でなんだか少し切なげに笑っていた気がする。
「それじゃあ、桜の『春』は?」

「うーん…いっぱいありすぎて困るかな。考えとく。」
「そう…ねぇ、桜。
私言わなきゃいけないことが…」

その時、優子の言葉を遮って放送が流れた。
「3年2組加藤桜さん。
至急、第3職員室に来て下さい。」

「あ、呼び出しだ。優子、言わなきゃいけないことって?
この前もそんなこと言ってたけど…」

「ううん、いいの。それよりも急がなくて大丈夫?」
「あっ、大変!それじゃあ行ってくるね。
今日は少し用事があるから先に帰ってて。それじゃ!」

私はそう言って優子と別れた。
卒業式の2日前の事だった。

次の日もその次の日も優子とは会わなかった。
クラスも離れているし、仕方なかったと言えば仕方なかったのだけれど…。


*2*

卒業式当日。私は優子を探していた。
優子が言っていた、『言わなきゃいけないこと』というのが気になっていたからだ。

だけど学校のどこを探しても見つからない。
卒業式の間も探していたけれど優子は見当たらなかった。


私が優子を探して廊下を歩いていると、丁度よく優子の担任に出会った。

「すみません、大原さんって今日来ていないんですか?」
「あら、加藤さん。大原さんは来ていないわよ?
加藤さん、大原さんから何も聞いていないの?
大原さん、アメリカに留学するのよ。
昨日も一昨日もその準備で学校へは来ていないの。
卒業式に出られないのをとても残念にしていたわね。
確か、飛行機の時間は3時だったと思うけど…。」

私は先生に軽く挨拶をすると一目散に学校を出た。
今の時間は午後1時。
幸い空港は隣町だったから運が良ければまだ家にいるかもしれない、そんな期待を胸に全力疾走をする。


*3*

優子の家は見晴らしのよい高台にあった。
真っ直ぐな坂を上った上にある。
道の両端には桜の木が軒を連ねるようにして植わっており、春には満開の桜のアーケードを作る。
何度も優子と一緒に歩いた道だ。
私が息を切らせながら坂を走っていると坂の上、つまり優子の家の前に一台の車が止まっているのが見えた。
そしてその近くには見慣れた制服を着た少女、優子の姿があった。
「優子!!」
私は力の限り叫ぶ。
桜の木を見上げていた優子は、はっとしたように私の方へ視線を向ける。
驚いたような表情で。

「…桜。」

私は息も切れ切れに優子の元へ走る。
優子はばつの悪そうな顔で私を見つめていた。


*4*

「桜…私……。」

「はぁ…はぁ…まだ、答えてなかったでしょ?
…この間の質問の答え。」
「え…?」

「私にとっての『春』。
やっぱりたくさんあって一つに決められ無かったの。
でも今、思いついた。
私にとっての『春』は『始まり』。」

「…始まり……桜らしいわね。」
優子はクスッと笑う。
それにつられて私もクスクスと笑った。

「私、手紙書くから。
こっちであったこといっぱい書くから。
だから優子もちゃんとそっちであったこと教えてよね?」

「…うん。」
「優子、そろそろ飛行機の時間よ。」
優子の母親の言葉に従い優子は車に乗り込んだ。

「桜、今までありがとう。
私あっちに行っても桜と過ごした三年間のこと絶対に忘れないから。」

「私も忘れない。…優子、またね。」

『さようなら』ではなく『またね』。
私の言葉に優子は笑顔でこう言った。



「うん、またいつか会う日まで。」



*Fin*

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「桃色春音(提出作品)」ある春ある日

2010/05/21

――――――
春企画「桃色春音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
――――――

 『ある春ある日』 詠香さま著


風が吹いた。
同時に薄紅の花弁が華麗に宙を舞い、やがて地表に降り注ぐ。
誰が見ても間違いようのない『春』だった。
゙出会い゙の季節でもあり、゙別れ゙の季節でもあるという。
一つの違わない季節であるというのに相反する二つの意味をもった不思議な季節…。

私は、春が嫌いだ。


「やはり、ここにいたか」
半ば呆れたような、でも確かに暖かさの込められた口調が私を振り向かせた。
「……何」
「別に?」
「そう、なら早くどこかへ行って。気が散るじゃない」
そう言って手元の本へと目線を戻す。
それなのにその影は一向に私の傍を離れようとしない。
何なんだ、
用はないと言ったくせに。
こちらから声を掛けてやるのも癪なので、しばらくじっと黙っていた。
彼も私の隣に腰を落として、黙ったまま最近短く切った私の黒い髪を右手で梳いている。
さらさらと撫でられる感覚が気持ちいい…―――
……………ちょっとまて。
「………何してるの」
「うむ、短い」
「……当たり前じゃない。切ったんだから」
私の素っ気ない返事にも、彼は怒らなかった。
「見た目よりずっと、短くなったな」
「…短いのは嫌いかしら?」
「いや。あんたならどっちでもいい」
「…………そう」
うん、仕方ない。
好きに触らせておいてやろう。

――あぁ、それにしても。
桜の木の下から蒼い空を見上げて、誰にともなくつぶやいた。
「春ね」
「…………」
返ってくると思っていた返事がなく、私は視線を彼に向けた。
「何よ?」
「………いや」
「…………?」
先程から彼は、私の髪を梳く手を止めて、私をじっと見つめている。
…何か私は変なことを言っただろうか。
記憶を辿り、ついさっき交わした他愛のない会話を一つ一つ思い返す。
……うん、変なことを言った記憶はない。
一体なんだというのだろう。
直接問い掛けようとした刹那。
彼が口を開いた。
「……明日…なのだが…」
あぁ、なるほど。
それが言いたかったのか。
「そうね。知ってるわ」
私はすぐにそう答えた。

明日。彼はこの街を出てゆく。
勅命であるから、覆すことは天地が引っ繰り返りでもしない限り不可能だ。

知っている。
彼がそれをこの上なく誇りに思い、楽しみにしていることを。
そして、この街から出たくないとも思っていることを。
相反する気持ち。まるで、春だ。

「はぁ…最後ぐらいもっと可愛げのあることを言ったらどうなんだ」
「言ったら、行かないでくれるの?」
「……――――」
少しだけ、彼の目が見開かれた。
私は、ほらね、と彼から視線をはずす。

―――と
くい、と短くなった髪を引かれ、彼の方に顔を戻された。
訝って眉をひそめると、口元に何とも言えない微笑を浮かべた彼は言う。

「それでもいいぞ」

意味が分からずに固まる私に構うことなく、彼は続けた。
「あんたが言うなら、俺はここに残ってやってもいいと言っているんだ」
「―――……は?……え、馬鹿?」
「正気だよ」
「――――死ぬわよ?」
「あんたの願いを聞けないよりマシさ」
「…………」
「どうだ?」
その目はよく分からなかった。
本気でそう言っているのか、いつものような冗談か――……。

いや、この際それはどちらでもいい。
本気の言葉でも冗談であっても私の答えは変わらずひとつなのだから。
「やっぱりあなたは馬鹿だわ。私の気持ちを全然分かっていないもの」
「そうか?」
「そうよ」
「ふむ…」
私は、あなたが夢を叶えることを願っている。夢見ている。
寧ろ、さっさと行け、と言いそうな勢いだ。

―――本当は、一番はじめに夢を叶えたあなたを見たいけれど。
無いものねだりは福を遠ざける。
だから、これで十分。
あなたが「ここにいてもいい」と言ってくれただけで、もう十分だ。

「………今日、俺を送る会的なものがあるらしいぞ」
「ふーん」
「あんたは――…来ないんだろうな」
「もちろんよ。何があっても行ってやんないわ」
だって、何を送れというの?
彼はどこかへ消えていってしまうわけではない。
ちゃんと、帰ってくるのだから。
「―――そうか…なら、俺も行かないでおこう」
「……え?」
あら珍しい。
あんなにパーティー好きなあなたが。
「『いつも通り』あんたといることにした」
「………ま、それがいいんじゃない?」
重ねられた手のぬくもりは、いつもと変わらない。
『出会い』であったり『別れ』であったり。
そんな何かが変わる季節なんていらない。
そばに、心に、いつもあなたがいればいい。

夢を叶えてほしいと願う気持ちは本物だ。
でも、今年の春が来なければよかったのにと、思う心も本物なのだ。
こんなことで悩んでいるのはこの街で私ぐらいなのだろうなぁと思っていると、気付かないうちに涙が頬を伝っていた。
ぬぐってくれた手がとても愛しくて、その手を止めてほしくなくて
私はずっと涙を流し続けた。

私は、春が嫌いだ。

だけど

私は、次の春が待ち遠しい。


彼の帰ってくる春が。



end…

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「桃色春音(提出作品)」ある春の日の二人の会話

2010/05/21

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春企画「桃色春音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『ある春の日の二人の会話』 遥さま著


「ふぅ……こんなもんだな」
 時刻は午後のティータイムから少しばかり過ぎたあたり。客の流れも途絶えたところで、コポコポと沸き立つサイフォンからコーヒーを淹れ一服。明るすぎず暗すぎず落ち着いた色合いの調度品で調えられ、パッヘルベルのカノンが静かに流れる店内での優雅な一時。春先の暖かく柔らかな日差しも差し込んでとても心地よい。

 カランカラーン

「てーんちょ~~景気ど~お~帳簿は真っ赤っか~!?」
 擬音にするとドタドタという具合で失礼な言葉を吐きながらささやかな幸福の一時をぶち壊しにしてくれたのは、この店がオープンして初めてのお客にして学校が終わるとほぼ毎日来ている暇じ――――常連である。ちなみに景気のほうはギリセーフといったところ。こいつのおかげで黒字であると言ってもいいが感謝の言葉を口にすると図に乗るので絶対に言わないことにしている。
「お前のおかげで店に入りたくても入れないやつがいて迷惑だから今すぐ帰れ」
「!? ガ――ン!! お客に対して帰れってお前何様だー!」
「店長様ですが何か?」
「くっ……店の経営も思った以上に伸びなくて、可愛い看板娘を雇ってその娘と恋愛イベントを起こしたくても起こすことのできない二十代後半の夢見る男性がフレッシュでスタイルもイイ女子校生というブランドを持つ美少女に対して何の劣情も持たず冷たくするなんて…………」
「お前の頭は大丈夫か?」
 確かにそこいらの女子と比べると(黙っていれば)カワイいとは思うがそれを自分で言うだろうか?
「はっはっはぁ~学年トップ、全国模試一桁の成績を誇るこの私の頭のどこが異常だと~愚民がぁ~」
 疲れる…………一日の疲れの九割以上がコイツのせいなんだがどうしたらいいだろうか? 医者に『ナントカと天才は紙一重な客のせいで精神的に疲れて毎日来るもんだから疲れが取れません』と言うべきか?
「おぉーい店長、溜息吐くと幸せ逃げちゃうぞー?」
 幸せを逃がしてしまう原因が何を言うか。
 外の景色でも見て癒されようと窓の外に目を向けると、学校帰りの学生がちらほら。どこにでもいる学生だが制服に着られている感じがするからおそらく入学したばかりだろう。桜の舞い散る並木道を歩くその姿は初々しさに満ち溢れていた。
「そういやお前もあんなんだったよなー」
「んにゃ、何が?」
「初めて会った時は物腰柔らかくて初々しかったのに悪質な詐欺だよなぁ」
「メチャクチャ失礼ッスよ。初対面の人に猫被るのは社会で必要なんだよー」
「そのわりには化けの皮剥がれるのメッチャ早かったよな」
 何せ出会って五分も経たないうちに今の調子を全開にしやがったからな。あまりの落差に言葉を失っちまったぜ。
「いや、店長になら本当の自分を見せても大丈夫だな~って思ったから素の自分を曝け出したんだけどね~――――――――ごめんね、私店長と一緒にいるととても嬉しくって……迷惑だった?」
「とりあえずその小芝居はヤメロ寒気がする」
「ちっ」
 はいそこ舌打ちしない。
「とりあえず客として来てるならなんか注文しろ、じゃなきゃ帰れ」
「それじゃ、チョコパフェバナナパフェ抹茶パフェストロベリーパフェマンゴーパフェチーズパフェヨーグルトパフェプリンパフェモンブランパフェミルフィーユパフェティラミスパフェドリンクは砂糖たっぷりミルクたっぷりのココアよろ~――――」
 ………………太るぞ。
「あ、私太らない体質だから無問題~」
「人の心の中読むなよ」
「にゃははぁ~それじゃ、よろしく~」
 注文を受けて厨房に立つ。グラスをいくつも用意するのめんどいな…………バケツにクリーム入れて具材突っ込めばいいかな。
「てーんちょーメンドクサイからって一つに纏めるのはダメッスよ~一つ一つグラスを空にするたびに味わえる征服感がいいんだよ~」
 あー…………作るのめんど。ささやかな嫌がらせでカカオ99%のチョコパフェを出す。ふっふふ、苦しみやがれ。
「てんきゅー&いっただきまーす――――――――おぉ! うめぇー! この苦さとクリームの甘さがなんともいえねえ~」
 ペースの下がることなくもきゅもきゅごくごく口を動かし続ける。無敵かコイツ?
「っていうかお前毎日来てるけどテーブル陣取って就職とか進学に向けて勉強したりするわけでもなく、ただ騒音を撒き散らしてるだけで進路大丈夫か?」
「んぐんぐ――――ぷはぁ、勉強なんて学校できちんと授業聞いてれば十分でしょ?」
 うわ、でたよ優等生発言。
「とりあえず進路はここに就職希望なんだけどいかが?」
「却下」
「それじゃあ、店長のお嫁さん希望ってことで」
「断る」
「えー、じゃあセフレでいいよー」
「進路じゃなくて関係になってんだろがマジメに答えろマジメに」
「や、マジッスよ。店長いつも私の真剣な告白をスルーしてくれちゃってさ~毎夜枕を涙で濡らしちゃってるんすよわたしゃ」
 真剣? あれが?
「真剣に告白するなら言葉使いナントカしろ」
「――――初めて店長と会った時から好きでした。私と付き合ってください!」
「うん、だが断る」
「ちょ――! お前ふざけんなああぁぁぁ!!」
「誰も付き合うとは言ってないだろ」
「乙女の純情弄びやがってコンチクショー!」
 何てからかいがいのあるヤツなんだろう。楽しいな。
「はああぁぁぁ…………婚活パーティーに行って出会いがあってもその場限りになってしまって女に飢えているはずなのにそんなに冷たくするなんて……はっ! もしかして店長そういう趣味かっ!」
「お前黙れ」
 それになんで俺の婚活パーティーでの出来事を知ってるんだ?
「店長私に対して素直になれないからってそんなに冷たくし続けてたら親密度低いまま卒業して二度と会うことのないバッドエンドになっちゃうよ?」
「はいはい。パフェ全部食い終ったならとっとと帰りな」
「こいつひでぇ~~こんなヤツぜってぇ結婚できねえぜぇ。私以外に恋愛イベント起きることがないと身を持って知るがいいさぁ!」
 そんな捨てゼリフを置いて店から出て行く。きっちり注文した食べ物の料金を払うあたりしっかりしているな。
「…………ふぅ」
 さっきまで騒がしかっただけに静けさがより際立ってしまう。気がつけば夕方、オレンジ色の風景の中で舞う桜の花弁には華々しさはなく物悲しさがあった。
 …………あと一年で卒業か……あいつが来ることが日常になってたんだなぁ。
 まぁ、たまに思いだして来て駄弁ってくれたらいいかな。

 さて、空いたグラスでも洗うか。それから、生クリームとか作り置きしなきゃいけねえな。

end.


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「桃色春音(提出作品)」青空はすべてを知る…

2010/05/21

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春企画「桃色春音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『青空はすべてを知る…』 黒蝶真理亜さま作



今日も青空
明日も青空なのかな…


ふんわり心地よい日光が
春の匂いを漂わせる

出会い、別れ、そして
何かを見つける人々…

その日々の成長を
この空は
いつも見守ってるんだ

僕はこの涙をぬぐいながら
太陽に向かって
微笑むのだ



*Fin*
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「桃色春音(提出作品)」桜と君と青空と、

2010/06/19

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春企画「桃色春音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『桜と君と青空と、』 姫月白逢さま




 ふわり、と桜の花びらが千歳の頭上を待った。
 今日は、千歳の高校の入学式だった。一年間の努力の結果、入学できた高校は進学校と評価されているものの、教師や先輩、学校全体の雰囲気はとても和やかなもので、高校見学に来た際、絶対ここに進学するのだと千歳は強く心に決めた。それから彼女は今までとは比べ物にならないほどの勉強を重ね、三年生当初には入れる訳がない、と中学の教師に呆れられていたこの高校に入学できたのだ。

(すっごく、気持ちが良い朝……)

 千歳が空を見上げると、そこには雲一つない青空が広がっていた。まるで空までもが自分の入学をお祝いしてくれているようで、千歳はそっと口元に笑みを浮かべる。
 ふと、視線を前方へと戻せば、高校の正門が視界に入った。あの門を通った瞬間から、千歳の高校生活が始まるのだ。
 千歳はぐっと拳を握りしめて、今にも駆け出しそうな勢いで正門へと向かった。

(私の、高校生活、どうなるかな)

 沢山の希望と、少しの不安を胸に、千歳が正門を通ろうとしたとき、誰かにぐいと手首をひかれた。急なことに千歳は目を丸くしながら、数歩よろける。しかし倒れないようにぐっと踏ん張ると、振り返った。
 ──そこには、見慣れない顔をした同じ高校の制服を着ている男子の姿が。

(……何、誰、この人)

 頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、千歳はその男子の顔をじっと凝視した。その男子は大きなアーモンドアイを持っており、端正な顔立ちをしていた。──必ず学年に一人はいる、異様にモテる男子のようだな、と千歳はぼんやり思う。
 一方でその男子は頬を微かに高揚させており、口元には笑みまで浮かんでいた。

「……あの、間違ってたら悪いけど、千歳、ちゃん?」

 不意に、男子の口から紡がれた自分の名前に、千歳は目を丸くした。
 なぜ初対面の男子が自分の名前を知っているのだろうか。いや、自分の名前を知っているということは、初対面ではないのだろうか。だとしたら小学生の頃のクラスメイトだった男子なのか。千歳はぐるぐると考えてみるものの、やはり目の前の男子の顔に見覚えはない。
 男子は千歳が自分が誰か思い出せていないのを見透かしているかのように、ふっと目を細め、言った。

「祐哉だよ、祐哉。ほら、幼稚園の頃、いつも一緒にいた祐哉」

 ゆうや。
 千歳はその名前を聞いて、ようやく目の前の男子が誰か、思い出すことが出来た。
 幼稚園のとき、いつも一緒にいる男子がいた。その男子は泣き虫で、いつも千歳の後ろを半ば泣きながら、ついてきた。千歳は自分がいなきゃ駄目だ、と幼心にそう思っており、まるで姉のように、同級生からいじめられている彼を守っていた。しかし彼とは小学校が別々になってしまい、次第に親同士も連絡をとることがなくなって、千歳は今までその男子を思い出したことは、ほとんどなかった。──その男子の名前は、

「祐哉……?」

 千歳の記憶が正しければ、桐谷、祐哉。
 
「そ、桐谷祐哉。すっごい久しぶりだね、千歳ちゃん」

 アーモンドアイの瞳に見つめられて、千歳は軽い目眩を覚えた。これは面倒なことになりそうだぞ、と。
 千歳は曖昧に笑って、祐哉の視線から逃げるように空を扇げば、そこにはやはり、雲一つない青空がそこに広がっていた。




桜と君と青空と、













Fin.
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