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「雪色冬音(提出作品)」消える思い出、繰り返す想い。

2010/12/05

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冬企画「雪色冬音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『消える思い出、繰り返す想い。』 凪 沙羅さま作




はらりはらりと落ちていく。

あなたとの思い出も、交わした言葉も、何もかも。

散っていく落ち葉と同じように、私の記憶からひとつ、またひとつ。

なんて、悲しいことだろう。

残るものは何ひとつ残せない私を、あなたは『それでもいい』と言ってくれたけど…。

私自身が、許せない。


消えていく。

何もかもが消えていく。

雪でさえ、積もれば束の間の時であってもその姿を留められるのに、私の記憶はただただ落ちていくばかり。


もう、あなたと出会った日のことを思い出せないの。

もう、あなたとどんな話をしたのかも分からない。

あなたに強く抱きしめられたその瞬間も。

あなたと生涯共に寄り添うことを誓い合った時のことも。


はらり、はらりと…涙と一緒に落ちていって、もう、あなたの顔さえ傍にいなきゃ思い出せない。


私はいつか、自分のことも分からなくなるのかな。

そうなったら、私はあなたが愛してくれた『私』じゃなくなるんだね。


「珍しいな、お前がメイクしてるなんて」

「…変? クリスマス(きょう)ぐらいはあなたのために頑張らなきゃって思ったんだけど」

「──無理する必要はないさ。どんな格好であれ、お前は俺の最愛の妻だからな」

「んもぅ! 愛してる人に綺麗に見てもらいたいって女心、分かってないんだから」


つんと澄まして言うと、彼は優しく微笑んで「いつだって俺の妻は綺麗だからな」って冗談みたいなことを真剣な顔して言った。

それに思わず赤面して。


でも、また私の中からはらり、と落ちていく。


「…ね、」

「うん?」

「今日、何の日だっけ?」

「……12月24日は、何の日だ?」

「…………あ、クリスマスイブ」

「と、結婚記念日な?」

「──ごめんなさい…」


思い出せなかった自分が嫌になる。

どんどんどんどん、私は私を嫌いになる。

嫌いになって、それさえもまた忘れていく。


この残酷な日々をあとどれだけ繰り返していくんだろう。

私はあとどれだけこの人を傷つけて生きるんだろう。


「…気にするな。お前の分まで、ちゃんと俺が覚えてる。絶対忘れないから」

「…うん…」


込み上げる涙を抑え、小さく頷いて彼にそっと寄り添った。


覚えていたい。

私も、あなたとの思い出を増やしたい。

それなのに、増えるばかりか減っていく。

なくなって、消えていく。


「……ね、」

「何だ?」

「──覚えててね」

「…え?」

「あなたが愛してくれた私のことを、覚えていて。嫌いになってもいいから、忘れないで。…私とキスしたことも、」


覚えていて。


願いながらそっと彼の頬に唇を押し付けた。

頬に残る、口紅の微かな色。


愛してる。

忘れても、愛してる。

何度でも、私はあなたを愛するよ。


「──どうせなら、頬じゃなくて口にしろよ」

「…っ…、な、何のこと?」

「あ! 忘れたフリは許さないからなっ? これが証拠だ、ここに残った口紅がっ!!」

「し、知らないよー?」


落ちていく。

ひとつ、ひとつ、確実に。

あなたの頬に残された、口紅の色だけ取り残して甘い記憶も消えていく。


「ほら、やり直し!」

「やり直しって…何を?」

「キスだキス!」

「えッ!? ちょ、ここ…外!!!」

「そんなの知ったことか。お前から仕掛けてきたんだろ」

「や、やだ!」

「拒否権なし」

「うっ…」


ジトッと見つめられて、責められてる気分になった私。

仕方ないとばかりに1つため息をついた瞬間、何をすればよかったのか思い出せないことに気づく。


「…どうすればいいの?」

「──…目、閉じて上向いてろ」

「? こう? ──んっ」


言われたとおりにしていると、唇に柔らかい何かが触れて。

啄ばむようなキスに、心がゆっくり満たされていくような気がした。

気温は低くて震えるくらい寒いのに、ポカポカする。


「──愛してる。俺の妻になってくれてありがとう」

「…私も、愛してる。あなたの奥さんにしてくれて、ありがとう」


お互いにそう言って、気恥ずかしくなって笑い合う。

そうしてまた、私の中から記憶が落ちた。

それでも、彼の頬にはまだキスの痕が残っていて、私がそれをつけた犯人だって推測できる。


──愛してる。

あなただけを、永遠に。



あなたの頬に残るその色に、私の気持ちを強く誓おう。





Fin.


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「雪色冬音(提出作品)」ハッピーメリークリスマス

2010/12/05

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冬企画「雪色冬音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『ハッピーメリークリスマス』 藍夜つかさ様作




この心を温める術はないのかしら
冷たいだけの冬に嫌気が差したわ
幾度か冬を君と過ごしたけれど
なんて不思議な事を言うもんだ

四季折々があるから美しいんじゃないか
と僕が反論してみても君は謎めいて笑うだけ

凍える心には暖かい雪を、と君が言った
だから今年のクリスマスにはサプライズを、と僕は思った

ただしんしんと降る雪は冷たいだけじゃないのを
他ならぬ僕が証明してあげるよ

長い長いマフラーに君が僕ごと巻かれて二人でいれば
ほら、君の厳しい顔も緩くなり、笑顔になるだろう

手先が不器用な君がマフラーを
自分で編むなんてことはしなくていい
僕が最高級のプレゼントを用意してあげるから待っていてね



 end.

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「雪色冬音(提出作品)」これからのスノウアゲイン

2010/12/05

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冬企画「雪色冬音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『これからのスノウアゲイン』 去姫さま著





「アナタに逢おうと願う時」

 願わずとも。願わずともそれはかなう。今日も地球が回っているくらいのこと。
 だから今日もこの道を行く。暗い夜道を一人で歩くのは誰にも奪わせないため。僕の温もりのすべてを寒空に預けるため。
 涙はもう十分流したから。びしょ濡れになった枕も月明かりの下、木枯らしにさらして溶かした。
 そうやってまだ僕に残る君の温もりのすべてを冬に託した。きっとみんなだってそう。僕ほどじゃなくても、大切な人と過ごした時間、手をつないだ温もり、ともに流した涙、一人泣いた涙をこの時のために積み重ねるんだ。

「あ・・・・・・」
 
ほら、だからこの瞬間。それぞれの温もりに還るんだ。真白な雪は僕らの悲しみの結晶。どこにでもある愛。当たり前のようにありふれた愛を溶かして、大切な日常に降り注ぐ。

「君だって見てるんでしょ?」

しんしん。まさにその擬音が当てはまる雪。暗がりにかすむそれらを街灯が切り取る。そこからただ茫然と見上げ続けていると、自分が空に吸い込まれていくような感覚に襲われる。

「まだそっちにはいけないよ。あの子に会いに行かなくちゃ」

 花が大好きだった君。君の庭にはいつも四季折々の花が咲いていた。だからこの季節は苦手だったね。毎日のように繰り返し「早くアネモネの季節にならないかな」っていってた。花言葉に詳しい君はそっと教えてくれたりした。

「薄れ行く希望」
 
 苦笑いした僕に慌てて付け足した。

「あなたを愛する」

 そんなこともあって、負けず嫌いな僕はこっそり花言葉を勉強した。リナリア、アングレカム、シオン・・・・・・「白い追憶」ってドクダミの花言葉なんだよ。あの、お茶。
まあそんなことも君なら知ってるんだろうね。でもたった一つ君でも知らない花言葉を、僕は知ってるんだよ。

 「雪の華」の花言葉はね、

「足跡」

「相対の思い出」

 知らなかったでしょ? 当たり前だよ。ごめんね、これ僕が考えたんだ。だから、一緒にもっと付け足そうよ。どんなに作っても、僕たちが全部覚えられればいいんだから。

 不意に雲が途切れて月明かりが滑り込んだ。それに誘われるようにして空を見上げると、オリオン座が恥ずかしそうに、顔をのぞかせていた。

「ああ・・・・・・もうすぐ来るんだね」

 再び襲う、吸い込まれるような感覚。今度は迷うことなくその先に手を伸ばす。
 純白の雪。どれもが同じに見えるようで、でも僕にだけはわかる温もりが確かにそこに居た。


「ほら・・・・・・君が還ってきた」




「何してるの? 今日は私に教えたいことがあるんでしょ!」


 はは・・・・・・


「君には敵わないな」

 


 Fin.
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「雪色冬音(提出作品)」ある冬の日の二人の会話

2010/12/05

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冬企画「雪色冬音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『ある冬の日の二人の会話』 遥さま著




「おぉ~~、雪降ってるっすねぇ」
 窓の外から見える冬景色に、仕事終わりで疲れてるだろうにも関わらずテンション高くて少しウザく感じてしまう。
「お疲れ、ほら飲め」
 それでも忙しい中で働いた労を労ってのコーヒーを出すと嬉々と受け取り、カップに息を吹きかけて冷ましながらこくこくと飲んでいく…………ああ、こういう仕草がいいって言う人もいるけど、今ならその気持ちがわかるかもな。
「それにしてもすごい人来てたねー。去年は客だったからあまり思わなかったけど働く立場になると大変ッスよ」
 働いてみて初めてわかる苦労を得ているようで何よりだ。
 年末で普段はそこそこな店内も家族連れやカップルで賑わい、閉店になるまでその勢いが収まることはなかった…………何回経験しても慣れることがないね。まあ、客がたくさん来るのはありがたいんだけどな。
「ふぅ…………店長と恋仲になれない中できゃっきゃうふふしてるカップル見るたびにマミられろって呪詛を撒き散らせていたあの頃も今となっては良い思い出だなぁ」
「その発言のどこに良い思い出に繋がる要素があるんだよ」
 つーか、変な造語作るなよ。
「わかってないなぁ??過去の積み重ねがあって今の私があるんだよ。であれば、どんな過去であってもそれを受け入れて良きものとしなきゃ」
 残念な子供を見るかのような視線にいまいち納得がいかねぇ。
「ま、それはそれと置いといて??さぁさぁ、店長たっぷりじっくりねっとりしっぽりラブろうよ♪」
 変な造語を満面の笑みで言うなよ。
「お前何か企んでね?」
「ししし失敬なっ!! 私のこの天使のような悪魔と見せかけた女神の笑顔のどこに企みが含まれるの!?」
 あからさまな動揺見せながら反論しても説得力ねえぞ。
「悪魔の笑顔の時点で含まれてんじゃねえか」
「笑顔の裏のそのまた裏に秘めた純粋な愛情がわからないの!?」
「ややこしいことしてんじゃねえよ!」
 わかってほしいなら回りくどいことしないでストレートにやれよ!
「だって~~今までが店長好き好き~~ってストレートに言うキャラだったからここらで変更しようかなーって」
 ごめん何言ってんのか全くわからんけど、
「自分で言うほどキャラ変わってないぞ。というか、今までと同じじゃね?」
「なっ――――!?」
 某少女マンガのようなガーンとした表情をするやつ初めて見たぞ。
「んで、お前は何がしたいんだよ」
「んっとね~~、一緒に夜道歩かない?」
「は?」


「はぁぁー……やっぱり寒いねえ~~」
 黒々とした空からアクセントを添えているかのように雪の降る夜道を不満というより再確認しているかのように言い、冷えた両手に息を吹きかける。そんな後ろ姿を眺めながら俺も歩いているわけだが、
「俺……何でここにいるんだ?」
「何で……って店長何言ってるの? 私のお願い聞いてくれたからこうしてデートをしてるんじゃないの?」
 俺の疑問に訳がわからないよといった表情で説明してくれたが…………こいつの『お願い』を聞いた直後からこの瞬間までの記憶がないんだけど。
「てんちょー何考えてるのかわからないけど、場面の切り替えなんてよくあることだから気にしちゃダメだよ」
 場面の切り替えってなんだよ。あともう一つ疑問があるんだが。
「それにしても店長を外で見るのって初めてのような気がするんだけど何でだろ?」
「知らねえよ」
 俺の心を読んだかのような発言をするが俺自身わかるはずがないのだから答えようがないぞ。
「ふーん、まいっか」
 その一言で疑問に思ってることをばっさり切り捨てると、ふんふふ?んと鼻歌を歌いながら、ジャンプしたりくるくると回ってみたり子供のようにはしゃぎながら前を進む。控えめに降る雪の効果もあり、より雰囲気を楽しんでるように見える。
「そんなしてるとコケるぞ。ちゃんと歩け」
「大丈夫だよ?、こんなんで転ぶのはマヌけぇっっ!?」
「おま――――」
 忠告に素直に従わずに見事に足を滑らしたマヌケが顔面強打――――する前に手を回して体を支えることに成功。
「ったく、何やってんだよ」
「ふぃ~~ソーリーソーリー店長ナイス!」
「はぁー……」
「ふぅー……」
「……………………」
「……………………」
「………………………………」
「………………………………」
 互いに一息吐き、そして気づいた――――俺がこいつのどこを触っているかに…………あ、やわらか。

「あ~~~~てんちょー…………ちょっと恥ずかしいんですけど…………」
「っ! ごめ――――」
 その一言に我に返り、慌てて手を離すが、
「ちょっ! 何で手を離すの!?」
「はぁっ!?」
 勝手にキレられて怒られたんですけど何でだよ!?
「どうしてもっともみもみしないの店長!」
「バカじゃねぇ!?」
「バカはどっちッスか! イベントが発生したんだからそこは回避するんじゃなくて、このままヤるのが普通でしょうが!!」
「んな普通があるか!!」
「店長私のことが好きなんでしょ! だったらもみもみしてよ」
「意味わかんねえよ!!」
 愛情確認で胸揉むってどんな変態だよ。
「もー店長にはがっかりだよ!」
「俺はお前のお頭にがっかりだよ!」
 互いに互いを貶して溜飲が下がったところで顔が合い、
「「ぷっ」」
 同時に噴き出した。
「あははっははは――――!! 相変わらずお堅いね~~店長は」
「お前もしおらしくなったかと思ったけどやっぱ変わらんね」
「そりゃあ私だからねぇ~~」
「納得だ」
「そこ納得すんのかい」
「お前だからな」
「だったら仕方がないか」
 会話を弾ませながら道を歩く俺たち。
「店長クリスマスはちゃんと2人きりで過ごせるようにしてよ」
「了解」
「プレゼントで婚約指輪くれたら嬉しいんだけどなぁ~~」
「んなことすると思うか」
「全然思ってないよ」
「お前な…………」
「さっきの仕返しだよーだ」
 あかんべーする頭を軽く小突く。
「やっぱ変わらんな俺たち」
「無理して変わる必要ないしね~~」
「そうだな」
「でも――――」
 そこで言葉を区切ったので不思議に思った俺が振り返ると丸い瞳を輝かせ、
「変わっていくところを2人で楽しんでいけたら最高だよね」
 あぁ、本当にこいつは無邪気で何でも楽しんでいけるんだな。
「そうだな」
「んふふ~~そりゃ」
 ぎゅっと腕にしがみつかる。よくあるシチュエーションだと聞くけど、いきなりされると体勢を崩しかけて軽くイラッとするもんだな。まぁ、それ以上にむにむにとしたものが当たってるんだけど、気づいてるんだかないんだか……ツッコむのはやめるか。
「てんちょー恥ずかしい?」
「当たり前だろ」
 答えてやるとよりいっそうしがみついてきやがった。香水とかつけていないはずなのに甘い香りに意識が削られていく…………ってダメだろ!
「おま、離れろ!!」
「ちょっ! そこまで嫌!?」
「じゃなくて、今はとにかく離れてくれ――――!!」

 近所迷惑になることはわかってるけど、それより必要な湧き上がる欲望を押さえ込むための絶叫が黒と白のセカイに響き渡る――――。




 Fin.

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「雪色冬音(提出作品)」雪になった貴方と

2010/12/05

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冬企画「雪色冬音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『雪になった貴方と』 舞香さま著




 静寂が世界を包む、そんな夜のことだった。
 しんしんと積もる雪にすべての音が吸い込まれて消える。
 目が覚めた少女はゆっくりとベッドから下りた。カーテンの隙間から外を覗いてみても、ひんやりとした空気が頬を刺しただけで何も見えなかった。月は出ていない。雪の日なのだから。
 そっとドアを開けて外に出る。マフラーとコートをしっかり着込んで。雪帽子を被った街灯が心もとない淡い光で少女を誘っていた。
 あぁ、ここで合っている。少女は白い息を吐いた。すぐに消えてしまう吐息の向こうに人が歩いてくるのが見える。

 「おや、こんな時間にどうして君はこんなところにいるんだい?」
 「あなたを待っていたの」
 「それはおかしな話だ。なぜ僕が来ることがわかったんだい?」
 「夢を見たから」
 「夢?」
 「えぇ、夢」

 街灯の下で二人はただ立っていた。すぐ横にあるベンチには雪が積もって座れない。
 彼は厚手の手袋をしていた。少女の手には、何も無い。
 少女は彼の顔を眺める。雪と同じくらい真っ白な顔が、街灯の光でほんのりと照らされていた。

 「それはどんな夢だったんだい?」
 「あなたが私を迎えにくる夢」

 彼は笑った。君が僕を待っていたんだろうと。
 それでもこうして出会ったのだから同じことでしょうと少女は言う。
 ひらひらとした雪が彼の頬を撫でて少女の頭に落ちた。

 「おやおや、こんなに冷えてしまって」

 彼の厚手の手袋が少女の小さな手を包んだ。

 「手袋は嫌いなの」
 「どうしてだい?」
 「触れ合ってる感じがしないもの」

 少女の声が震える。それは少し怯えているようにも見えた。
 彼は少女の頭にうっすらと積もった雪を払ってやりながら、もう一度しっかりと小さな手を優しく包む。
 今夜は静寂が世界を覆う日。

 少女は自分の手が彼のそれと繋がるのを感じた。
 冷たく震える手に温もりが伝わって、そして――
 

 淋しく佇む一本の街灯から、雪帽子が音もなく滑り落ちた。
 雪はまだ止まない。静寂を連れて。


 (凍える心には暖かい雪を、と彼が言った)
 (そんな、気がして)


 ――少女と彼は雪になって散った。




 Fin.

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「雪色冬音(提出作品)」忍びと微笑

2010/12/09

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冬企画「雪色冬音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
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 『忍びと微笑』 鈴成 恵さま作




冬の夜は、一番冷え込む。

そう思いながらぼぅっとしていると、むいっと両頬をつねられる。

「な、なに」

「あ?いやー、お前ってほんと笑わねェなと思って」

むにむにとされるがままになりながら、千尋(ちひろ)は目の前の男を見た。
おもしれー、と呟きながらずっとつねっている彼は、余程千尋の頬が気に入ったのだろうか?
それならそれで、素直に嬉しいと思う。

「でも、前よりは表情、豊かになった」

「まぁな。前に比べりゃあそうだろうよ。口数も増えたしな」

ぱっと手を離すと、今度は指でつつきだす。

「昔は親の前でも笑いもせず、ほとんど喋らず。そっから考えたら、急激な進化だよな」

「父上も母上も、嬉しそう」

「そりゃそうだろ。親は子が一番だ」

「瑯李も、嬉しい?」

まさか尋ねられるとは思っていなかったのか、瑯李(ろうり)はパチパチと目を瞬かせた。
彼の目を、千尋はじーっと見る。
その光景はまるで、幼い子供が親に答えを求める姿のようだ。

少なくとも、恋人同士だと思う人はいないだろう。

「――嬉しくねェ」

少し考えたあと、瑯李はそう答えた。
千尋は一目見て分かるほど、激しく落ち込んでいた。

「あー、いや。嬉しいっちゃぁ嬉しいんだがな」

言葉が足らなかったと気づいたのか、瑯李はガシガシと頭を掻きながら目を反らす。

「俺からしたら、まだ表情が乏し過ぎるんだよな」
「少ない」
「正直もったないだろ。折角親に、美人に産んでもらってんだからよ」
「びじん」

しばらく誰の事か分からなかったが、自分が褒められていると自覚した途端、千尋の顔は真っ赤になった。
ぼん!と煙でも出そうなくらいに。

「美人、違う、えと」

「おーおー、そんな反応も出来るようになったんだなァ」

瑯李は何だか子どもの成長を見つけたかのように、嬉しげに感慨深そうに言った。
わしゃ、と千尋の髪をなでると、静かに離れる。
部屋を出ていく瑯李を、千尋も雛のようについて行った。

そして瑯李が庭に降りた時、彼の部下が現れたのを見て別れの時間だと悟る。

「長――」

「分かってる。先に行ってろ」

「瑯李、任務?」

「ああ。もう部屋に引っ込んどけ、風邪引くぞ」

片手をひらひらとさせて、千尋が庭に下りるのを止める。
そんな瑯李を心配そうに眺めていれば、彼は千尋の前に来て跪いた。
頭を垂れたまま、「行って参ります」といつもと違った態度で告げる。この時だけは、主従の関係に戻るのだ。

「気をつけて」

それだけ返せば、瑯李はそのまま黒い靄に掻き消されてしまう。


「……瑯李」

先ほどまで触れていた頬に手をやりながら、千尋は庭へと下りる。
ざり、と地面の砂の音を立てながら、立ち止ったのは池の前だ。
満月がゆらゆらと頼りなく揺れながら、姿を映していた。

「美人って、褒められた」

水面に映った自分の顔を見ながら、柔らかい声で呟く。


「嬉しい、な」

そう言った時の千尋の顔は、瑯李が一番望んでいた表情だった。

「早く会いたい」

きゅっと小さな手を握り合わせながら、水面の月に願った。



 Fin.

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「雪色冬音(提出作品)」白の頃、赤の刻

2010/12/13

――――――
冬企画「雪色冬音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
――――――

 『白の頃、赤の刻』 黒乃 桜さま作




あなたを想う時
まるで月と太陽のようだと思う

夜の町をその笑顔で
明るく照らすあなたは太陽

陽射しの中の緑を静かに
見守り愛でる私は月

生きる世界も時間帯も
私達は重ならない


だけれど白い息を弾ませて
あなたが泣かなくても良い言葉を探す

しがらみも煩わしさも
何もかも

捨ててしまえば
良いだなんて

私はついつい
言いそうになるのだけれど


私は太陽に目を細め
あなたは月を仰ぐでしょう

両方が空に見える時間へ
けれども浮き立つ足を運ぶ

いつしか言わないと決めた
魔法の言葉を携えて


その紅にお慕い申し上げましょう

あなたを飲み込む夜の闇が
優しくないというのなら

月を見上げて私を思うというのなら


幾らでも幾つでも
許してしまいそうになり

少し目を反らしながら

一つだけ一言だけ
2つの球体が浮かぶ紅の下で


お慕い申し上げておりますと



Fin.

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