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「雪色冬音(提出作品)」消える思い出、繰り返す想い。

2010/12/05 15:22

――――――
冬企画「雪色冬音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
――――――

 『消える思い出、繰り返す想い。』 凪 沙羅さま作




はらりはらりと落ちていく。

あなたとの思い出も、交わした言葉も、何もかも。

散っていく落ち葉と同じように、私の記憶からひとつ、またひとつ。

なんて、悲しいことだろう。

残るものは何ひとつ残せない私を、あなたは『それでもいい』と言ってくれたけど…。

私自身が、許せない。


消えていく。

何もかもが消えていく。

雪でさえ、積もれば束の間の時であってもその姿を留められるのに、私の記憶はただただ落ちていくばかり。


もう、あなたと出会った日のことを思い出せないの。

もう、あなたとどんな話をしたのかも分からない。

あなたに強く抱きしめられたその瞬間も。

あなたと生涯共に寄り添うことを誓い合った時のことも。


はらり、はらりと…涙と一緒に落ちていって、もう、あなたの顔さえ傍にいなきゃ思い出せない。


私はいつか、自分のことも分からなくなるのかな。

そうなったら、私はあなたが愛してくれた『私』じゃなくなるんだね。


「珍しいな、お前がメイクしてるなんて」

「…変? クリスマス(きょう)ぐらいはあなたのために頑張らなきゃって思ったんだけど」

「──無理する必要はないさ。どんな格好であれ、お前は俺の最愛の妻だからな」

「んもぅ! 愛してる人に綺麗に見てもらいたいって女心、分かってないんだから」


つんと澄まして言うと、彼は優しく微笑んで「いつだって俺の妻は綺麗だからな」って冗談みたいなことを真剣な顔して言った。

それに思わず赤面して。


でも、また私の中からはらり、と落ちていく。


「…ね、」

「うん?」

「今日、何の日だっけ?」

「……12月24日は、何の日だ?」

「…………あ、クリスマスイブ」

「と、結婚記念日な?」

「──ごめんなさい…」


思い出せなかった自分が嫌になる。

どんどんどんどん、私は私を嫌いになる。

嫌いになって、それさえもまた忘れていく。


この残酷な日々をあとどれだけ繰り返していくんだろう。

私はあとどれだけこの人を傷つけて生きるんだろう。


「…気にするな。お前の分まで、ちゃんと俺が覚えてる。絶対忘れないから」

「…うん…」


込み上げる涙を抑え、小さく頷いて彼にそっと寄り添った。


覚えていたい。

私も、あなたとの思い出を増やしたい。

それなのに、増えるばかりか減っていく。

なくなって、消えていく。


「……ね、」

「何だ?」

「──覚えててね」

「…え?」

「あなたが愛してくれた私のことを、覚えていて。嫌いになってもいいから、忘れないで。…私とキスしたことも、」


覚えていて。


願いながらそっと彼の頬に唇を押し付けた。

頬に残る、口紅の微かな色。


愛してる。

忘れても、愛してる。

何度でも、私はあなたを愛するよ。


「──どうせなら、頬じゃなくて口にしろよ」

「…っ…、な、何のこと?」

「あ! 忘れたフリは許さないからなっ? これが証拠だ、ここに残った口紅がっ!!」

「し、知らないよー?」


落ちていく。

ひとつ、ひとつ、確実に。

あなたの頬に残された、口紅の色だけ取り残して甘い記憶も消えていく。


「ほら、やり直し!」

「やり直しって…何を?」

「キスだキス!」

「えッ!? ちょ、ここ…外!!!」

「そんなの知ったことか。お前から仕掛けてきたんだろ」

「や、やだ!」

「拒否権なし」

「うっ…」


ジトッと見つめられて、責められてる気分になった私。

仕方ないとばかりに1つため息をついた瞬間、何をすればよかったのか思い出せないことに気づく。


「…どうすればいいの?」

「──…目、閉じて上向いてろ」

「? こう? ──んっ」


言われたとおりにしていると、唇に柔らかい何かが触れて。

啄ばむようなキスに、心がゆっくり満たされていくような気がした。

気温は低くて震えるくらい寒いのに、ポカポカする。


「──愛してる。俺の妻になってくれてありがとう」

「…私も、愛してる。あなたの奥さんにしてくれて、ありがとう」


お互いにそう言って、気恥ずかしくなって笑い合う。

そうしてまた、私の中から記憶が落ちた。

それでも、彼の頬にはまだキスの痕が残っていて、私がそれをつけた犯人だって推測できる。


──愛してる。

あなただけを、永遠に。



あなたの頬に残るその色に、私の気持ちを強く誓おう。





Fin.


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