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「雪色冬音(提出作品)」忍びと微笑

2010/12/09 23:01

――――――
冬企画「雪色冬音」提出作品
この作品は企画に参加してくださった方が提出された作品です。
著作権は作者様にございます。無断転載・複製などの行為はご遠慮下さい。
――――――

 『忍びと微笑』 鈴成 恵さま作




冬の夜は、一番冷え込む。

そう思いながらぼぅっとしていると、むいっと両頬をつねられる。

「な、なに」

「あ?いやー、お前ってほんと笑わねェなと思って」

むにむにとされるがままになりながら、千尋(ちひろ)は目の前の男を見た。
おもしれー、と呟きながらずっとつねっている彼は、余程千尋の頬が気に入ったのだろうか?
それならそれで、素直に嬉しいと思う。

「でも、前よりは表情、豊かになった」

「まぁな。前に比べりゃあそうだろうよ。口数も増えたしな」

ぱっと手を離すと、今度は指でつつきだす。

「昔は親の前でも笑いもせず、ほとんど喋らず。そっから考えたら、急激な進化だよな」

「父上も母上も、嬉しそう」

「そりゃそうだろ。親は子が一番だ」

「瑯李も、嬉しい?」

まさか尋ねられるとは思っていなかったのか、瑯李(ろうり)はパチパチと目を瞬かせた。
彼の目を、千尋はじーっと見る。
その光景はまるで、幼い子供が親に答えを求める姿のようだ。

少なくとも、恋人同士だと思う人はいないだろう。

「――嬉しくねェ」

少し考えたあと、瑯李はそう答えた。
千尋は一目見て分かるほど、激しく落ち込んでいた。

「あー、いや。嬉しいっちゃぁ嬉しいんだがな」

言葉が足らなかったと気づいたのか、瑯李はガシガシと頭を掻きながら目を反らす。

「俺からしたら、まだ表情が乏し過ぎるんだよな」
「少ない」
「正直もったないだろ。折角親に、美人に産んでもらってんだからよ」
「びじん」

しばらく誰の事か分からなかったが、自分が褒められていると自覚した途端、千尋の顔は真っ赤になった。
ぼん!と煙でも出そうなくらいに。

「美人、違う、えと」

「おーおー、そんな反応も出来るようになったんだなァ」

瑯李は何だか子どもの成長を見つけたかのように、嬉しげに感慨深そうに言った。
わしゃ、と千尋の髪をなでると、静かに離れる。
部屋を出ていく瑯李を、千尋も雛のようについて行った。

そして瑯李が庭に降りた時、彼の部下が現れたのを見て別れの時間だと悟る。

「長――」

「分かってる。先に行ってろ」

「瑯李、任務?」

「ああ。もう部屋に引っ込んどけ、風邪引くぞ」

片手をひらひらとさせて、千尋が庭に下りるのを止める。
そんな瑯李を心配そうに眺めていれば、彼は千尋の前に来て跪いた。
頭を垂れたまま、「行って参ります」といつもと違った態度で告げる。この時だけは、主従の関係に戻るのだ。

「気をつけて」

それだけ返せば、瑯李はそのまま黒い靄に掻き消されてしまう。


「……瑯李」

先ほどまで触れていた頬に手をやりながら、千尋は庭へと下りる。
ざり、と地面の砂の音を立てながら、立ち止ったのは池の前だ。
満月がゆらゆらと頼りなく揺れながら、姿を映していた。

「美人って、褒められた」

水面に映った自分の顔を見ながら、柔らかい声で呟く。


「嬉しい、な」

そう言った時の千尋の顔は、瑯李が一番望んでいた表情だった。

「早く会いたい」

きゅっと小さな手を握り合わせながら、水面の月に願った。



 Fin.

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