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死人花

2010/11/07 15:19

【後書きみたいな前書き!】


この話は、
「朽ちたる華弁」という短編集の
第一章となっております。

話はもちろん、一話完結ですが、どこかの何かと繋がっているかも…。


今回の「死人花」は
「少々ホラーチックに、しかしどこかメルヘンっぽく」を目指してます。
苦手な方はお気をつけて。
ですが、直接的な流血・暴力の描写はございません。

「朽ちたる華弁」は、花言葉をモチーフに使っています。
「死人花」は、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、「彼岸花」の別名だそうで。


ではでは、ごゆっくりとお楽しみ下さい…。

 管理人・天乃音羽


 ~*~*~*~*~*~*~*~



○第一章 死人花‐ヒガンバナ‐

 紅が踊る。緋が舞う。赤が揺れる。
 眼下には紅い死人花(ヒガンバナ)が広がっていた。彼岸の時期に咲くから、彼岸花と呼ばれているのだろう。
 その花々は、ただ静かにゆっくりと風に揺られていた。脈々と蠢く心臓の様に、降り頻る雨の様に、緋色は全てを侵略していた。
 細い花びらから長い茎まで、全てが優雅にうねる光景。
 それは、まるで身体を流れる紅い血のようで、刹那の間にその考えは全身を駆け巡り、脱力感が重く圧し掛かった。その脱力感は更なる脱力感を呼び起こし、それは更に苦々しい吐き気を催す。
 紅い赤い彼岸花は、秋、彼岸の時期より前に咲く事は無いという。その時にだけ、その一瞬の間にだけその命を花開かせる、哀しくも健気で、儚く美しい花。
 だが、此処では関係ない。そんなモノは、とうの昔に消えていた。
 なぜならば、此処は、昔(マエ)でも未来(サキ)でもなく、そして。


 世界は既に、終わったのだから。


 ~*~*~*~*~

 少年は、これといった特徴がある訳でもない、普通の人だった。
 彼は特に勉強が良く出来た訳でもないし、習っている習字やピアノ、水泳なども、どれもずば抜けて上手いという訳ではなかった。体育だって、絵を描くことだって、これといって良く出来る訳じゃなかった。
 何も特徴の無い少年は、けれど普通で良いと思っていた。
 普通の高校へ行って、普通の家に住んで、普通の生活を送る。それが、少年が望んでいたことだった。
 少年が住み、少年が暮らす、普通の世界。それでも、少年はよかった。これといって特徴の無い、これといって非日常のない、普通の、平凡な、普遍的な世界を望んでいた少年には、それでよかったのだ。
 少年はそんな普通の世界が好きだった。

 ~*~*~*~*~

 其れが一瞬で壊れたのは、少年が塾から帰る道で、だった。
 少年は、何時もは友人と帰る道を、友人の用事により一人で歩いていた。
 辺りには、完全ではないが、それなりに重い闇が満ちていた。道を照らしていたのは、哀しいほどに微かな灯だった。
 光は頼りなげに少年の進む道を示していた。冬も近い秋の終わりで、鋭く寒々しい風が辺りを舞っていた。
 少年は、誰も居ないのは、何時もの事だったので、然して気にはしなかった。少年の靴の音だけが、道を駆け抜ける。


 ブツッ


 まるで血管が切れるような、切れたらこんな音なのだろうか。何かを切断したような変な音が聞こえたと思ったら、少年は、一瞬、心臓が握りつぶされたのかと思うほどに息苦しくなった。
 少年は、焦ったように酸素を求めて口を動かした。しかし、少年の口からは、掠れた空気の音しか発せられない。彼の肺が、まるで空気を拒んでいるかのように。全ての闇が、彼の肺を喰らっているかのように。
 途端、少年は混乱し、狼狽した。息が自由にできないという不安が、今更ながらに少年を焦らせた。そして、焦って、混乱して、少年は、世界が暗転したのかと思った。
 しかし、実際にはそんなことはない。
 少年には分からなかったが、少年が狂ったのではなく、世界が、道が異様だった。
 少年が次に見たのは、暗い道だった。
 先ほどまで頼りなげでも道を照らしていた微かな光が、消えていた。
 思わず少年は眼を見張った。息ができないという恐怖に苛まれながら、しかしその頭で、停電かと考えた。考えたが、思考は其処で止まってしまう。何故突然に起こるのか、何もわからなかったからだ。
 辺りに満ちていた灯が、消えた。頼りなくとも道を照らしていた、唯一の光が、ほんの一瞬眼を離した隙に、消えた。
 その事実は、息の浅い少年を酷く苦しめた。
 少年には重い闇が、更に重く感じられた。
 月明りは隠れていて、其の光を地に与える事は無い。
 目の前に広がる道は、ただ暗いばかり。
 濃い闇が、意思を持ったかのように少年を絡めとる。まるで闇が少年を縛っていくような錯覚。そんな重い闇が心臓を握り締めたような恐ろしい感触。
 少年には、自然と、嘔吐感が込み上げてきた。少年はそれを堪えるのに必死で、意識が辺りに回らなかった。それが、更に恐怖を呼び起こしていく。


 少年が朦朧とする中、彼に視えるのは闇ばかり。


――――何かおかしい。何か違う。何故突然に灯が消えた。何故こんなにも苦しい。具体的に良く分からないが、例えるなら、歯車が噛み合わなく、異様な音を立てている感じ。


 少年は不安ばかりが膨れ上がる自分に、とてつもない恐怖を感じた。
 辺りには、人の気配がなかった。
 少年だけが世界から隔離されたような、世界に見放されたような風景。
 ぞわっと肌を撫でるような、人ならざるものの気配だけが、少年の霧散しかけた其の意識を強く引きとめていた。


 息が、苦しい。闇が、重い。


 そして、何かが切れたように、今まで少年の中で蠢いていた嘔吐感が治まった。肺に息が、自然と入る。重々しい闇、異様すぎた其の闇が、一瞬で消えていた。
 辺りは依然暗いままだった。
 だが、その暗さは日常的な闇といえるものだった。
 灯はその光を失ったまま、そして空間に満ちた静寂は、少年の恐怖を呼び起こすのに充分だったが、それらは普遍的なもの。
 歯車が、一瞬で元の場所に戻った。狂った歯車が、ピッタリと噛み合った。
 これが、正常、正しい元の位置。全てが全て、自分のいるべき場所に収まり、安心したかのごとく、軋むような音色を奏でることは無かった。
 だが、恐ろしさだけは消えなかった。
 少年の本能が叫んでいた。
 逃げろ、と。

――ここから、今すぐに、走って逃げろ。ここにいてはいけない、今すぐに、早く。

 少年は、全身を寒気が駆け巡るのを感じていた。
 何かに視られているような、えもいわれぬ不安感。鳥肌が一瞬にして少年を覆った。
 全ての神経を逆撫でるような、恐怖が、少年から弾けんばかりに溢れていた。
 何かに縛り付けられているような感じ。重い闇が一瞬にして少年に纏わりついた。


 ほら。すぐ其処に。何か、いる。


 消えた灯。辺りの闇。噛み合わない歯車。隔離された。握られる心臓。喰らわれる肺。酷い嘔吐感。異様なほど気配の消えた道。走る震え。逃げろという本能の叫び。
 そんな耐え難い苦しみに喘ぐ少年の眸が視たのは。


――――嗚呼、なんだ。
――――全てが、一つに繋がった。




「はぁ……」

 何やら、少年は久し振りに声を発した気がした。少年の其の声はほんの少しだけ、掠れていた。
 眼下には紅い死人花(ひがんばな)が広がっていた。
 壊れたような異様な世界の中で、其の花だけが主張するように咲き誇っていた。
 少年は、自分の心臓の静かな音が、世界の中で激しい音を立てているのに気づいていた。
 風の無い、不自然に切り取られた空間の中に、少年は立っていた。
 只其処に存在するだけの紅い花は、紛れもなく輝いていた。
 無限に、辺りに広がるだけの膨大な空は、異様な世界を無情に包み込んでいた。
 終わりの無い、視えない地上の果て。

―――― そんな中にぽつんと立つ自分。

 恐らくボクは ――――――――――。


                              ~Fin~


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